紳士的なLady*Another
その場に居てはいけないと考えるも、曲がり角や電柱もなく、隠れようがない。
3人で顔を見合わせてみても、良い手段なんて一つもなく。
その場に、ぼうっと突っ立っている事しか出来なかった。
泣きながら剣夜さんの服を掴み、甲高い声で責める女の人。
それを鬱陶しそうに見つめる剣夜さん。
彼女?
こんな人が?
剣夜さんの趣味は、こんな人なの?
今見ている剣夜さんは、
私の知っている剣夜さんじゃなくて。
見ていられなくて、声も聴きたくなくて、どうしようもなく逃げ出したいのに。
足が動いてくれなかった。
「行こう、千波」
察知してくれたのか、足早に私の手を引いて歩き出す剣ちゃん。
鈴音ちゃんも空気を読んでくれたのか、私の左隣に付いて、隠してくれた。
「……待って」
急に掴まれた、右肩。
グラリと後ろに傾き、ぎゅっと抱き寄せられる。
え……?
顔を上げて見れば、剣夜さんの柔らかい笑顔。
つられて私も作り笑いを浮かべた。
その直後。
「俺、今この子が好きだから」
耳を疑うような言葉が、そこの空気を一瞬で変えた。