紳士的なLady*Another
今日はさして疲れている訳でもなかったのに、今になって疲れがドッと溢れ出す。
一体これはどこから出てきているんだろう。
何で今になって出てくるんだろう。
この場をどうにか出来るのは、私だ。
どうにかする、というよりも、私がこの場から逃げたかっただけかもしれない。
「いい加減にしてくれませんか」
鳴り止まない耳鳴りと、やけに喧しく感じる蝉の声。
パシンッと乾いた音が一瞬だけ響き、耳鳴りと蝉の声に消されていった。
「この人が私を好きだなんて有り得ません。私はこの人の妹さんの友達であって、彼とはただの顔馴染みです。彼があんな事言ったのは、丁度いいタイミングで私が来たからであって、好きとか、……そういうのじゃないんです」
まだ涙を零している彼女に言い聞かせているのか。
ーー自分に言い聞かせているのか。
……恐らく後者だ。
自分が、剣夜さんの体の良い身代わり程度になっただけ。
そう考えると、悔しい気もしたが、納得出来る。
「千波ちゃ……」
「後は勝手に話つけて下さい。私たちはこれで」
白々しく頭を軽く下げ、右肩を払って二人の方へ歩く。
耳鳴りが、少しだけ和らいだような気がした。