紳士的なLady*Another
……。
「二人とも、気にしなくていいのに。普通に喋っててよ」
小一時間程、剣ちゃんの部屋で黙々と課題を進めていた。
剣ちゃんも、鈴音ちゃんも、何も喋らない。
さっきのことを気にしているのは分かるけど……。
この空気はさすがに重い。
「そう……?普通だけど?」
「剣ちゃん、嘘吐くの下手すぎ」
彼女が嘘を吐けない事は、私がよく知っている。
まぁ、こんな空気になっちゃったのは、私のせいでもある訳だけど。
「……あんな風にされたって、誰も喜ばないと思うなー」
視線はノートの方へ向けたまま、ポツリと本音を零す鈴音ちゃん。
何となく元気が無さそうに見えたここ数日、鈴音ちゃんがやけに大人びて見える。
「好き……、だったんじゃないの。剣兄のこと……」
耐えられなくなって訊いたのか、剣ちゃんが真っ直ぐ私を見据えて遠慮がちに尋ねた。
「好きだったよ。でも、私が知らない間に、剣夜さんは全然知らない男の人になってた。それが何かね、……寂しいのか、腹立たしいのか、よく分からない」
昔から剣夜さんがモテるのは、知っていた。
あの剣ちゃんのお兄さんだし、モテるのは当たり前で。
何度か隣に立つ女の人を見て、何度もその人を羨んだ。
ルックスを使い果たして、選び放題の彼だと思っていたけど、剣夜さんはそんな事はしない人だと思っていた。
剣ちゃんに訊いても、「1年半はフリーみたい」と、私だけが安心する返事ばかりだったし、嘘を吐かない彼女は、そんな下らない事は決して言わない。
「結局、私が何にも知らなかっただけ。買い被ってたのよ」