紳士的なLady*Another
眉間にこれでもかと言うほど皺を寄せて見上げた顔は、出来ることなら会いたくなかった人。
「剣夜さん……?何で……」
足早に進ませていた足をぴたりと止め、呆然と剣夜さんを見つめる。
「オープンキャンパスが近いからそのお誘いに来たんだ。千波ちゃん、今から部活?水筒貸して。持って行くよ」
ぽかんと口を開けたまま、右肩から水筒の紐を掬い上げられる。
背中に刺さる女子たちの冷たい視線を感じて、やっと口を閉じて歩き出す。
後ろからブーイングが聴こえるけれど、もうどうでもよかった。
「相変わらずマネージャーは大変だよな。こんな重たいの、女の子一人で持つんだから。千波ちゃん頑張ってるね」
素でやっているのか、無言の私のご機嫌取りをしているのか、頭を撫でてくれる。
……こんなの、素じゃないくせに。
それでもどこかで嬉しくなってしまう自分が居るのが、腹立たしいほど悔しい。
ここで無言のままだと、何も考えていない子供みたいだ。
余裕のあるオトナな態度で迎えてあげないと。
「暑いなか大変ですね。お疲れ様です」
「……オープンキャンパスの勧誘ってのは、建前だけどね。ほら」
目線の先には、3人の大学生さん。
分厚い紙の束を抱えて、ヒイヒイ言っている。
「剣夜お前何女の子と喋ってんだよ!!手伝え!!」
怒りを含んだ声でズンズンと近付き、目の前で半分紙の束を押し付けられる剣夜さん。
それをやんわりと手で制すと、私が持っているタオルの半分も持ってくれる。
「俺の分は配り終わったからいいだろ?それにさっきお前らの分の半分も貰ってあげたろ。自分で全部配れ」
「お前ここの学校の女子ほとんどにポスター渡したんだろ」
「顔が良いと何やっても上手くいくからいいよなあ!」
「あっ!君まだ貰ってないの?はい、どうぞ!」
苦しそうに顔を歪めて笑いかけてくる大学生さんが可哀想で、ポスターに手を伸ばした時。
「この子にはダメ」
ペシンと良い音が響くと、グイッと手を引っ張られる。
「ちょっと……、剣夜さん?!」
後ろから冷やかしとどよめきの声を受け止めながら、剣夜さんの背中を睨みつける。
「そっち、部室の方じゃないですよ!」