のらねこ様、カレシ仕様
「ま、待ってクロちゃんっ!」
ふらって身を翻して部屋から出て行くクロちゃんに叫んでも、止まってくれなくて。
身を乗り出してバランスを崩した私を薫が慌てて支える。
「・・・どしよ、薫。私・・・」
あの時見たクロちゃんを思い出して、怖くて逃げた。
喧嘩を見たのは初めてじゃない。
だけど、
あの時のクロちゃんはいつもと違ってて。
簡単に私を打ちのめしてしまえる力と相まって、
伸ばされた掌に理性より本能が怖いと言った。
でも。
私が怪我して一番辛いのはクロちゃんなのに。
私、
クロちゃんを傷つけた。
怯えた私より、怯えた顔をして。
クロちゃんは生け垣に飛び込む猫みたいに、私の前から逃げてしまった。