君だけに夢をもう一度 ~完結編~
「彼も苦労しているみたいだ。いつも父親と比較されて、それがプレッシャーになって悩んでいるようだった」
正和は、小野寺から聞かされたことを話した。

「そうか・・・・・・わかるよ。後継者っていうのも辛いものがあるからな。俺も死んだ親父の後を継いでクリニング屋をやっているけど、今だによく言われるよ。父親は仕事熱心だったのに、どうして、おまえはそうじゃないんだって。まったく頭にくるよ」
竹中が同情するように言う。

正和は、竹中の言っていることは、小野寺にも言えることだろうと思った。

小野寺は、自分やバンドのメンバーとは違う世界で生きている人間だろう。

小野寺にしてみたら、生まれながら偉大な音楽家を親を持って、いつも音楽を聞くことや演奏できる環境にいた。苦労することなく、親のコネで音楽家の仕事ができている。音楽家を目指す人間からすると、羨ましいほど恵まれている。だが、小野寺本人には、常に偉大な父親の存在が付きまとう。いつしか父親を超える音楽家になることを、周りの人間は期待してしまう。
それが本人にとっては、苦悩になってしまう。

昨夜、酔いながら『気楽にやりたい』と愚痴っていたのも、そのことが原因だろう。

正和は、車の中で淡々と父親のことを話していた小野寺のことが、どこか心苦しく思えて仕方なかった。


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