君だけに夢をもう一度 ~完結編~
次の日の午後。
正和はライブハウスにいた。本番前、正和は控え室を出て、敦子に電話をする。
正和の携帯電話に、敦子の着信履歴があった。

「今どこにいるんだ?」
「今から飛行機で東京に帰るところよ」
敦子のおだやかな声が返ってきた。

「彼には会えたのか? 」
正和が一番に気になったことを聞いた。

「ええ、なんとか新幹線に乗り込む前に会えたわ」
「そうか・・・・・彼、喜んだんじゃないか? 」
「ええ・・・・・・」
敦子は、照れるように返事をする。

「今度、ニューヨークへ彼に会いに行くことを約束したわ。そこで、彼がどれだけ変わったのか楽しみにしているの」
「そうか・・・・・・・」

「彼、今度こそ自分の殻を破って演奏できそうな気がするから」
「殻って、何だ? 」

「今まで彼は、偉大な音楽家の父親の存在に惑わされていたような気がしていたんだけど、これからは、自分の好きなような演奏をやって、そこで評価されたいって言ってくれたの。何かふっ切れたような感じがしたわ」
敦子は、嬉しいそうに話す。

「そう・・・・・」

「正ちゃん、本番が始まる時間だぞ! 」
浜田が、正和を呼びにきた。
正和が、手をあげて浜田に答えた。

「すまん、そろそろライブが始まる」
正和が電話を切ることを告げる。





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