君だけに夢をもう一度 ~完結編~
「私が貸した服を返しにきたの。それで、今から東京に帰るって言っていたわ。彼とも縒(よ)りが戻ったみたいね。山本君、ちょっと複雑な気持ちじゃないの? 」
敦子が、正和の心の内を探るように聞く。

「何が、複雑なんだ? 」
「敦子さんとは、恋人だったんでしょう。その彼女が別の男性と幸せになることに」
「複雑な気持ちなんてならないよ。彼女は、昔同じ夢を見た同士みたいな者だ」
正和は、はっきりした口調で答えた。

「そう・・・・・・」
真紀子は案心したように、屈託のない笑を浮かべた。

「それから、敦子さん別れ際に、私に妙なこと言ったわよ。山本君の背中は押したからって、どういう意味なんだろう? 」

真紀子の言葉に、正和は一瞬ハツとして足を止める。

「どうしたの?」
急に歩くのを止めた正和が、気になったように真紀子は振り返る。


「天神にある『月』っていうお好み焼き屋、よく食べに行っているんだろう? 」
「ええ、あすこのブタ玉は最高よ。でも、急になんでそんなこと?」
真紀子がけげんな顔をする。

「良かったら、今度連れて行ってくれないか? 」
「ええ・・・・・・いいけど・・・・・・」
真紀子は、正和が突然何を言い出したのかわからず、戸惑うように返事をする。

「食べてみたいんだ。そのブタ玉を・・・・・」
正和は、笑みを浮かべて言う。

「どうしてもって言うんだったら、一緒に行ってあげる」
真紀子は、しぶしぶ了解した口振りだが、その表情は満面の笑みだった。

再び、正和と真紀子は、一緒に同じ方向を歩き出した。

完。




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