君だけに夢をもう一度 ~完結編~
「こっちも商売だから、客が酒を出せって言えば出すけど・・・・・・昨夜のあなたは、何か悩んでいたようで、愚痴ばかり言って飲んでいたから・・・・・・」
男がタバコを吹かしながら言う。

「私が愚痴を・・・・・・・どんなことを言っていたんですか? 」
敦子は、信じられないような表情をする。

「どんなことって・・・・・・覚えていないの? 」
男は意外そうに言って、しばらく考える。

「言ってもいいのかな・・・・・・」
「教えて下さい」
敦子が気に掛ける。

「男って・・・・・・・どうして殻を破ることをしないのかって・・・・・・・そう何度も言って飲んでいたけど」
男は言いにくい様子だった。

「そうですか・・・・・・・・」
敦子は、自分のことながら覚えていない。他人事のように聞いて頷いた。
ただ、愚痴った言葉の意味は、自分にも思い当たることがある。

「まあ、いろいろあるかもしれないけど、あまり思い悩まないことだね・・・・・・・」
男は優しい口調で、なだめるように言った。

敦子は苦笑いをした。


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