愛してるよと言われたくて
中学2年生の夏。
母が寝静まったのを確認してから、
私は足音をたてないよう
細心の注意を払いながら
1階へと降りた。
脱衣所の奥に隠しておいたビニール袋から、
ヘアカラー剤を取り出した。
ミルクティブラウン。
『ご近所物語』が大好きだった私は、
作者の絵が描かれたパッケージをしずかに開封し、
説明書に忠実に、作業を開始した。
ものの1時間で、
私の真黒なバージン毛は
透き通るような茶色に変化した。
鏡を見た。
気分が高揚するのがよくわかる。
かわいい。
自分に今までなかった自信が湧き出てきた。
父のことなんか、頭からすっぽり忘れらさられた。
早く学校に行きたい。
そんなことすら思った。