愛してるよと言われたくて

中学2年生の夏。

母が寝静まったのを確認してから、

私は足音をたてないよう
細心の注意を払いながら

1階へと降りた。


脱衣所の奥に隠しておいたビニール袋から、

ヘアカラー剤を取り出した。


ミルクティブラウン。


『ご近所物語』が大好きだった私は、

作者の絵が描かれたパッケージをしずかに開封し、

説明書に忠実に、作業を開始した。



ものの1時間で、
私の真黒なバージン毛は

透き通るような茶色に変化した。



鏡を見た。

気分が高揚するのがよくわかる。


かわいい。


自分に今までなかった自信が湧き出てきた。


父のことなんか、頭からすっぽり忘れらさられた。



早く学校に行きたい。


そんなことすら思った。
< 22 / 25 >

この作品をシェア

pagetop