わたしはね、ママを選んで産まれて来たの。 −上−
入院して5日目。
自分でも気管の音がしなくなってきたのがわかった。
ひゅーひゅーも、
ぜぇーぜぇーも、
自分ではわからないくらい元気。
さすがにママも、
夜あのハンモック的ベッドで寝るのは、
もう限界だっただろうな。
たった5日だけど、
病室の子たちとも仲良くなったりしてた。
だからわたし的には、
そんなに退屈じゃなかった。
前日の回診で、
明日もしかしたら退院出来るかも。
なんて鈴木先生が言ってくれたから、
この日は大人しく回診を待っていた。
キャスターのカラカラって言う音が聞こえると、
あ、回診の先生がもうすぐだ!
なんて知恵まで身につけたりして。
キャスターのカラカラ音には種類があって、
看護師さんの身体測定だったり、
お掃除のおばちゃんだったり、
体を拭くタオルの配分だったり、
点滴の交換だったり、
いろいろあるんだけど、
回診の先生のキャスター音はまた別。
大量の入院患者さんのカルテが積んであるから、
カランカランって軽い音じゃない。
ガラガラって重たい音。
やっと鈴木先生が回診に来てくれて、
気管の音を確認してもらった。
「やっぱりもう大丈夫そうだね」
「はい」
「じゃあ昨日言った通り、今日退院しようね」
「ありがとうございます」
「二週間分お薬出しておくから、また二週間後に外来で様子見せに来てね」
「はい、お世話になりました」
ママがお辞儀をして、
わたしも「先生ありがとうございました」って挨拶をして。
こうして、
わたしの初入院生活が終わった。