わたしはね、ママを選んで産まれて来たの。 −上−


小さないじめに耐えながらも、
登校だけはしていた。
正直学校には行きたくなくなっていたけど。


そんなとき、
久しぶりに大きめの喘息の発作が起きた。

外来で小児科にかかって、
そのまま入院コースになった。

不謹慎だけど、
ラッキーだと思った。
行きたくない学校に、
これで行かなくて済むんだから。


父とままには、
もちろん内緒。
「いじめられている」
なんて、口が裂けても
言いたくなかった。

だって。
恥ずかしいし、情けない。
当時のわたしは、
そう思っていたから。



一週間の入院ライフを終えて、
また現実に引き戻される。


だけど。
もしかして登校したら、
何事もなくなっていて、
関田くんも、みんなも、
普通に接してくれるんじゃないかって。







そんな淡い淡い期待は、
登校してみて、一瞬に砕け散った。














相変わらず、
関田くんとの机の距離は空いたまま。


(なに、これ…!?)


ランドセルの中身を
机の引き出しに仕舞おうとして
引き出しを開けると、
引き出しの中はベタベタ。

呆然と立ち尽くしていると、
関田くんが席を離れたのを見計らったように、
後ろの席の愛ちゃんがコソコソっと、
耳打ちをしてきた。


「その引き出し、関田くんが図工のノリ塗っちゃって」

「そっか」

「ごめんね…」

「え?」

「注意したら、今度はわたしがやられちゃうかと思って…で、出来なくて」

「大丈夫だよ」

「で、も…」

「愛ちゃん、話してくれてありがとう」

「…うん」

「愛ちゃんは心配しなくていいからね」

「ご、めん…ね」


正直き話して愛ちゃんは、
途中から泣いていた。
愛ちゃんにまで、
辛い思いさせちゃってたんだ。

愛ちゃんは、
本当に本当に、
凄く優しい子だから、
困ってるわたしを見てみぬ振りしてることだって出来たのに。






ありがとう、愛ちゃん。
わたしは、愛ちゃんの気持ちだけで嬉しかったよ。




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