わたしはね、ママを選んで産まれて来たの。 −上−


取り敢えず、
石川先生が来る前に、
すべてをなんとかしないと。


わたしは、
引き出しの細かい中身を出して、
雑巾を持って、
廊下の水道で引き出しを洗った。

ドアの開いた教室からは、
「だっせー!」とか
「マジきたねー!」とか
いろいろ聞こえて来るけど、
そんなのには構っていられない。

洗い終わった引き出しを、
綺麗な雑巾で拭いて、
急いで席に戻る。


「せっかく綺麗に塗ってやったのに」


隣の席に戻って来ていた関田に、
大声で笑われたけど、
無視してランドセルの中身と、
元々入っていた細かいものを引き出しに入れ、
空になったランドセルをロッカーへ置きに行く。


(これもか…)

(くだらないこと、するな…)


わたしのロッカーの中には、
「死ね」やら「キモイ」やら
「ブス」やら「消えろ」なんかが
書かれた紙クズや、
授業中に誰かが回したであろう

「深依を無視して下さい」

なんて書かれたゴミまで入っていた。



わたしは、
それをまとめて手に取って、
ロッカーにランドセルを入れると、
丸めてごみ箱に放り捨てた。


「おはよーう」


ここで何時もの笑顔の、
石川先生が教室に入って来た。

危ない、セーフだった。

少しほっとして席に着くと、
先生がわたしを見て、
嬉しそうに微笑む。

「深依ちゃん、よく来れたね」

「はい」

「もう大丈夫なのかな?」

「はい、大丈夫です」

「良かった!でもあんまり無理しないようにね」

「はい」


わたしも、
精一杯の笑顔を作ってみた。
ちゃんと笑えてたのかな?



石川先生、嘘ついてごめんね。
心から笑えなくて、本当にごめんなさい。





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