わたしはね、ママを選んで産まれて来たの。 −上−
この日から、
わたしは学校で一日中喋らなくなった。
無視する奴には無視。
からかう奴にも無視。
掃除の時間。
わたしの班は、
旧校舎の階段掃除。
体育館を新しくするため、
旧校舎には体育倉庫の荷物が、
すべて置かれている状態。
早速男子は掃除をサボって、
ドッジボールで遊びはじめた。
すると旧校舎の音楽室掃除の
班のグループも集まって来て、
ドッジボール大会が始まってしまった。
そこからが地獄。
2階から1階にかけての階段を
雑巾で拭くわたしの背中に向かって、
一回ボールが当たったかと思ったら、
もう止まらない。
わたしが無視して、
雑巾掛けをしてるのをいいことに、
男子6人から、
次々とボールが飛んで来る。
後頭部、首、背中、肩、足。
ボールは休むことなく、
わたしの身体のあちこちに当たる。
悔しくて、情けなくて、
だけど何も言えなくて。
無意識に涙が溢れてきた。
相手に背中を向けてるのが、
唯一の救いだった。
涙なんか見せたら負けだと思っていたから。
「うっるせーな!掃除の時間に何遊んでんだ、お前ら!」
一瞬時間が止まった。
やって来たのは、
キレると怖いことで有名な用務員さんだった。
「ボールは玩具じゃねぇんだからさっさと片付けろ!そんでお前らも、そこの女子見習って真面目に掃除しろよ!」
「はい」
「すいませんでした」
男子達が次々と謝って、
ボールを片付けていく。
涙も止まり、
階段を拭き終えたわたしは、
その様子を
「ざまあみろ」
と思いながら、
雑巾を片手に水道に向かった。
水道で雑巾を洗っていると、
意外な男子から声を掛けられた。
その男子は、関田とよく一緒にいる、
ハーフの男子「シル」だ。
「深依、今日一言も喋ってなくない?」
「は?」
「大丈夫?」
「なにが?」
「いや、ごめん…何でもない」
わたしは最初、
関田に何か言われて
話し掛けてきたのかと思ったけど、
シルの声は、
本当に心配してくれてた声だったんだと思う。
シル。
ごめんね、ありがとう。