わたしはね、ママを選んで産まれて来たの。 −上−


「今日の道徳の時間は、このクラスで起きた嫌なことを考えてみて、配られた紙に思い付いた事を書いてみて下さい」

石川先生のその言葉を聞いて、
わたしは固まった。

(もしか、して…)

(ばれて…る?)

先生が何故、
今こんな授業をするのか、
わたしは不安と恐怖でいっぱいだった。

だって何を書いたらいいの?
ありすぎて紙に収まりきれない。
それとも、得にありませんって、
すっとぼけた方がいいの?


「あんな下手くそな絵が賞取れる訳ねぇよな」

「んー」

「だってマジできたねーし下手じゃん」

さっきの図工の時間を思い出す。
「火の用心」がテーマのポスターを
描いていたときのこと。

関田がわざわざ隣の席の由美ちゃんに、
わたしに聞こえるように、
わざとらしく話し掛けてたこと。


「ドッジボール行こうぜ」

わたしの班が給食当番なのに、
わたし以外のメンバーを誘って、
校庭に行ってしまって、
結局わたしひとりで全部片付けたこと。


それからそれから…!
もう挙げたらキリがない状態だった。

それにしても、
本当に正直に書いていいのかすら迷う。
大好きな石川先生に迷惑は掛けたくない。
だけど、この地獄から抜け出したい。


複雑な思いで、
配られた白紙の紙と睨めっこがつづく。


そうしてる間にみんな先生の元に、
紙を渡しに行ってる。


いろいろ思い出してるうちに、
わたしは無意識に鉛筆を握っていた。

「旧校舎の階段の掃除中、関田くんと他の男子に何度もボールをぶつけられて、すごく嫌でした」

書き終わったと同時に、
涙が溢れそうになって本当に焦った。



震える手で紙を持って先生の元に行くと、
先生はその場で、わたしの文字に目を通し、

「辛かったね」

と、小さくボソッと呟くと、
わたしの頭をゆっくりと撫でてくれた。
それをきっかけに、
堪えてきた涙が一気に溢れ出した。

席に戻るとき、
関田が不思議そうな目で見てきたけど、
そんなのお構いなしで、
わたしはタオルで目を隠したまま、
机に突っ伏した。





あーあ。
とうとう、先生にバラしちゃった…



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