おもいのたけ~ホワイトデー物語~
握られていた左手を振り払っていこうとした時
「凉花!」
より強い力で左手を掴み、引っ張られた
バランスを崩した私は暖かい何かに包まれた
「すず、ごめん。すずのこと、ちゃんと見てなかった」
声は私の頭の上から聞こえる
「小さい頃の約束を忘れたこともない。すずのことを好きだと言いたかった。ずっと…」
卓の声がとても柔らかく聞こえる
「じゃぁ、なんで今言うの?女ぐせの悪い奴にそんなこと言われたくない!た…邑中君は優しいから!離してよ!」
私は信じられなかったから…
卓の言葉も行動も…
「どうしていつも信じてくれないんだ?女ぐせの悪い奴?誰がそんなこと言ってた?俺はすずだけなんだから…」
泣きそうな声から握られていた手から卓の悲しみが伝わる
なんで私、こんな奴を好きになったんだろ?
もしかして嘘の情報掴まされた?
卓が人一倍不器用だって知ってたじゃん
信じなくてごめんなさい
「もう、頭ぐちゃぐちゃ。頭の整理させて」
その瞬間、卓の表情が強張ったような気がしたから
「大丈夫。逃げないから。とりあえず左手離して。痛いし」
その瞬間、卓の力が緩まり、卓の表情が見えるように移動し、笑いかけた
卓の表情は強張ったままだから、明るく言ってやった
「さぁ、帰ろう!明日も仕事だし、寒いしね!」