長い一日。
そうだね。

でも私でも思うよ?

こんなの悲しいよ。

私は冷たい鍵達を抱き締めた。

これはおじいさんの感情の鍵。

閉じることで我慢してたんだね?

でも今だけは少し開けてよ

言っていいんだよ。

悲しい気持ちを言っていいの。

これは弱音なんかじゃない。

自分の感情なんだから、胸を張って言っていいんだよ。

感情を言葉にするのは、決してかっこ悪いことじゃない。

逆に強い証拠なんだよ。

自分の弱みと向き合えている証拠なんだから。

『本当…か?』

うん。

だからほら、怖がらずに開けてみて?

重たい扉は砂のように崩れて消えた。

暖かい風がすりぬけたかと思うと、私の周りはたくさんの楽器に囲まれていた。

壁にはたくさんの音符やトーン記号が描かれている。

奏でられている曲はどこか悲しくて、時々泣き声がまじって聞こえた。

よく見ると、楽器の置かれている中心に小さくなった男の人がいた。

「どうして泣いているの?」

「大切な人はもう先に行ってしまったから。
僕の音楽は全部あの人にあげたんだ。」



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