長い一日。
…そっか。
もしかしたら、誰かにあてたつもりでもその人よりもその曲が似合う人、必要とする人がいるのかもしれない。
じゃあ、おじいさんが作った『オオイヌノフグリ』は?
もしかしたら、おじいさんの心に必要な曲かもしれない。
心に鍵をしてしまったからそれも忘れちゃったのかもしれない。
それなら、思い出してほしい。
曲を弾き終えるとおじいさんの心は笑っていた。
「もっとあなたの作った曲が聴きたいな」
私の本音混じりの励ましの言葉におじいさんの心は少し驚いたみたいだけど、声をはずませていった。
「今度はどんな曲?」
部屋の中が少し震えるみたいに動いた。
部屋に流れる曲調が早くなった。
おじいさんの心の顔にしわが刻まれていく。
止まっていた『時』が動き始めたんだ。
今なら大丈夫。
きっとあなたは前へすすめる。
私はそう確信してあの言葉を口にする。
「あのね。『青い小さい花』がいいな」
おじいさんは目を見開き驚いた顔をする。
でもおじいさんはすぐに幸せそうな笑顔をになった。
「かしこまりました。お嬢さん。」
にっこりと笑うおじいさんの頬を雫が流れた。
しわの線をなぞるように雫が寄り道をしながら流れていく。