長い一日。
おじいさんがピアノを弾きはじめると私の体は、引きずられるようにおじいさんの体からはじき出された。

おじいさんは歌っていた。

病院の中庭で、涙を流して、シイナに支えられて、花壇ぞいのベンチで歌っていた。

それは優しい歌。

暖かい春の歌。

おじいさんの大切な人と大切なおじいさんの心の歌。




しばらくすると、向こうから眼鏡をかけた白衣の先生がかけよってきた。

「阪井さん。検査の結果が出ましたよ」

息を切らしておじいさんに話し掛けると、隣にいるシイナに気付いた。

「検査の結果を話すので移動しましょうか?」

先生はかがんでおじいさんに手を差し出した。

きっと私達に気を使っているんだと思う。

「ここで言ってもらえませんかね?」

「ここでですか?…いいですが。お嬢さん。少し席を外してもらえるかな?」

いきなりの要望に先生は困りながらも、笑ってシイナに頼んだ。

「彼女にも一緒に聴いてもらいたいんだよ」

シイナの手を握ったおじいさんの手に力が入る。

きっと恐がっている。

それにシイナも気が付いていた。

「私も聴きたいです」

おじいさんの手を握り返し、シイナは笑い掛けた。

「…わかりました」

先生はため息をつき、立ち上がった。

そして二人を見て微笑んだ。

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