長い一日。
私は今までしてきたように思生の胸に手を押しつけた。

思生が飛び出してしまわないように、慎重に私は思生に溶け込んでいく。









そこはとても荒れていて、ボロボロな部屋だった。

はじっこで女の子が壁に物を投げ付け、泣き叫んでいる。

その少女の隣に時の子があらわれた。

私を見てにやりと笑う。

━━思生をつれていく気!?

私はとっさに走りだし、思生を抱き締めた。

「アンタ誰!?」

突然のことに動揺しつつも彼女は私を拒絶する。

「思生。お姉ちゃんだよ。わかる?」

私はできるかぎりの優しい声で語り掛ける。

「お姉ちゃん!?そんなの知らないよっ!!」

私を突き飛ばし涙でぐちゃぐちゃの顔で、私を見下ろす思生。

この思生には、私の知っているあの明るくて優しい雰囲気はまったくなかった。

もう一度抱き締めようとする私から必死にもがいて逃げ出す思生。

「思生。なんでわからないの!?私と一緒にこの病院の中を歩き回ったじゃない!!」

「そんなの知らない!!」

暴れ回る思生を押さえ付けている私を冷めた目で見ながら時の子はつぶやいた。

「知らなくて当然だろうね。だってアンタが知っているシイナは私が操った時を何年も生きていた精神体だからね」

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