長い一日。
「思生…」

涙をこぼし手に力が入った。

もうごめんなんて言えなかった。

その言葉は、今の思生を傷つける。

必死で強がってた思生の努力を壊す。

思生の心はこんなにも荒れてしまうほどに我慢したのに。

今の私には、思生を抱き締めてあげる権利もない。

私がどうすることもできずに立っていると、あざけるような笑い声が聞こえてきた。

「早くかたをつけないと、もう限界が近いよ?今のアンタは、シイナと真逆だからこの体に拒絶されてるしね」

時の子がおもしろそうに私を見下ろして言う。

「おまえもうるさいんだよっ!」

思生は時の子を殴った。

しかし時の子は煙のように歪み、笑い声だけを残して消えた。

時の子がいなくなると同時に思生の心の部屋がゆれる。

私の姿がぶれはじめる。

「っ!?暴れすぎて部屋が不安定になったの!?」

思生は私に振り返り、涙を目に浮かべながらも険しい顔で言い放った。

「アンタも!もう来ないで!」

「思生!お願い待って!」

私は、必死に思生に向けて手を伸ばした。

だけど思生の体からはじき出されてしまった。

それでも必死になって、もう一度溶け込もうとしたけどダメだった。

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