ドラマチックスイートハート
そんなものなのか?
イマイチ実感が湧かない。
気が張っているとこに、一気に緊張が抜けたのだ。
頭が正確に回転しないのは、仕方がない。
「だとしたら、余計に安心したよ。
新人の俺が、天崎さんの足を引っ張るワケにもいかないからね。
まだ演技に自信がないし」
そう言うと、天崎は何かを考え始めるが、それが直ぐに言葉に出る。
「じゃあさ、私の事は役名の『由奈』って呼ばない? 私も石垣クンの事を『コウ』って呼ぶから」
「役名で……? 天崎さんが良ければ俺はいいけど、本当にいいの?」
天崎は、にこりと笑顔を見せた。
「私から提案したんだからいいのよ。
それに、これは私がまだ新人だった頃に先輩に教わった方法なの。
普段から役に徹すれば、演技も自然に出来るんだって」
実に有り難い。
ここまで気を使ってくれる大女優は、いないだろう。
前にプロデューサーが話してくれた、天崎優の特別な性格。
それが、分かってきた気がする。
「じゃあ、よろしく由奈」
「こちらこそ、よろしくコウ」
2人の間で取り決めを行い、固い握手を結んだ