涙跡-Ruiseki-
「じゃ、私帰るね。
バイバイ、奈央ちゃん。」

アタシに微笑みながら
綺麗なスラッとした手を
ヒラヒラさせて、家を出て行った。

真美さんが帰ったのを
確認して、アタシに
尚人が詰め寄った。


「…奈央さ、お前、どういうつもり?」

「どうって、別に。
ただ、出くわしただけじゃん。」


こんな嫌な子なアタシで、
接したいわけじゃなくて。
ただ、気持ちを
分かって欲しかっただけ。


…なのに、気持ちが
素直に言葉に出なかった。


「いいから、こっち来い。」

アタシのことを
強引に引っ張って、
寝室へと連れ込んだ。


寝室は、真美さんの
香水の臭いが充満していた。

「離してよ…ッ!」

尚人のことを睨むと、
思いっきり頬を殴られた。

アタシの頬が、
じんわりと熱くなり
ジワジワと痛くなってくる。


頬の痛み。

尚人に殴られたこと。

尚人に分かってもらえない辛さ。


全てが、ごちゃ混ぜに
絡んでアタシは涙を耐えるのに
必死だった。


でも、1回瞬きをすると
すぐに溢れてきてしまったんだ。


1粒…

2粒…


ポタリ、ポタリ、って。

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