涙跡-Ruiseki-
ただ、好きなだけ…。

ただ、尚人が大好きなだけ。


たったそれだけなのに
想いが伝わらない…。

辛いよ…、こんなの。


「尚人はッ…、
アタシのこと嫌ぃ…な…の?」

上手く喋れなくて、
詰まり詰まりの言葉で
尚人に必死に問いかける。

こんな自分が、
すごく、すごく、惨めに思えた。

「もぅッ…、辛…ぃよ…ッ。」

薄着なままで、アタシは
家を出た。


独りぼっちなんだ、結局は。


尚人だって、
気まぐれでアタシと一緒に
居てくれただけ…だもんね。


聞き分けが悪い女は、
やっぱり嫌われるんだよね…。


馬鹿だ、そんなの、分かってたはずじゃん…


何を思ったのか、アタシは
マンションの屋上に上り
フェンスを乗り越えた所に立っていた。


「死にたい」なんて、
思わない。


…でも、生きる意味が
アタシには存在しなかった。


尚人の為に。

尚人と居る為だけに。


その為だけにアタシは、
生きていたようなものだから―――

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