涙跡-Ruiseki-
「・・・。」

何となく気まずくて、
尚人の顔を見ることが出来なかった。

尚人も何も喋らなくて、
沈黙が2人の間に流れる。
…アタシの嫌いな沈黙だ。


でも、その沈黙を破ったのは
普通なら怒ってるはずの尚人。


「…何でお前さ、出て来たの?」

低い、暗い声。

その声にビクビクし、
声を震わせながらアタシは
答えた。

ここで黙ってたらきっと、
もう、尚人は相手をしてくれないと
そう思ったし…

尚人が怖かったのもある。


「嫌…だったから。
尚人がここでしてるのが…、嫌なの…。」

「場所が関係すること?」

「…違う。
尚人が他の女としてるのが、嫌だ。」


今までに、こんなに
素直になったことってあったっけ?


…そう思うほどに、
今のアタシって
すごく自分の気持ちに素直だった。


「でもさ、それは
奈央もしてることだろ?」

「そうだけど…。でも…ッ!」


アタシの言葉を
塞ぐかのように、尚人は
アタシにキスをして口を塞ぐ。


「ふ…ぅんっ…。」

息の漏れる声を聞いて、
尚人は意地悪に笑った。

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