涙跡-Ruiseki-
「何?奈央は、俺のことが
好きだから辞めてほしいの???」

…ズルイよ、そんな質問。

「うん」って言ったら
機嫌悪くするくせに…。

「・・・。」

「好きなんだろ?お前。
言ってみ?好きって。」

意地悪の域を超えてる。
痛いよ…、そんな命令。

「・・・。」

「言えよ!!!早く。」

アタシに向かって
思いっきり怒鳴る尚人は、
優しい大好きな尚人では無くて
怖いアタシの苦手な尚人。

「…好き…だよ。」

「よく出来ましたぁ。」

そう言ってアタシの唇に
自分の唇を重ねる。

…普段ならすごく嬉しいはずなのに、
何故か今のアタシは
全くと言っていい程、喜びを
感じていないんだ。


溢れ出る涙を
止められないアタシは、
きっとすごく惨めな子だ。


「何泣いてんの?
俺、何か悪いことでもした??」

いつも通りの、尚人のはずなのに
何故かアタシの心が
泣いていた。

尚人だけど、
尚人じゃない気がして。

でも…
なのに、アタシは「好き」って想いが
止められなかった。

「尚人は…ッ、
アタシのこ…と嫌ぃ…なの?」

尚人がニッコリ笑って、
アタシのことを抱きしめた。

「嫌いだったら、一緒に居ねぇだろ?
俺、奈央のこと好きだよ?
可愛いかんな。」

「ほん…ッとに?」

「けど付き合っても、
お前絶対売り辞めねぇだろ。
…それが嫌だっただけ。」

「…え?」

「売りってさ、俺もそうだけど
天職みたいなもんじゃん、1回やると。
…だから、完璧に抜け出すこととか
出来ねぇんだよ…。」

尚人は、寂しそうに
そう呟いた。

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