涙跡-Ruiseki-
『ガチャ』って音と共に、
尚人と真美さんが廊下を
歩く足音が聞こえた。

「真美さん…、ほんと、すいません。
でも俺、真美さんのことも
本当に大切っすから…。」

その言葉に、
胸が苦しくなったけど
我慢した。

迷惑かけちゃいけない。

…ずっと尚人と一緒がいい。

たったそれだけの想いで、
アタシは自分を傷つけた。


でも真美さんは、
そのことを知ってか知らずか、
尚人の部屋のドア…
アタシが今居る部屋のドアを
思いっきり開けて、
尚人を引っ張って部屋に入ってきた。

アタシの方を見て
ニヤッと笑い、

「じゃあさ、ここで、キスして?」

と尚人に言った。


尚人は驚いた顔をしながら、
同時にアタシに
申し訳無さそうな顔をする。

その尚人の顔が、
何故か胸を締め付けた。


「…だめ?」

媚びるような顔と声で、
尚人に攻め寄る。


―ズキン…ッ――



痛む胸の奥で、
「しないで!」と
尚人に呼びかけるアタシが居た。


でも、そんなに
上手く行くわけが無くて…さ。



尚人は真美さんの頭の後ろに
手を回して、
抱き寄せるようにキスをした。


軽くするつもりで、
キスした尚人に真美さんが
自ら舌を入れていて、
時折アタシのことを見て
ニヤッと笑う。


気づくとアタシ、
涙が頬を伝ってた。

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