涙跡-Ruiseki-
その場に居られなくて、
アタシは廊下に飛び出した。
それを見て、
尚人がアタシを追おうと
してたのだけど、真美さんが
尚人の服の裾を引っ張っていた。

「うぅ…ッ。ふ…んぅッ…。」

声を押し殺して、
廊下に座り込んで泣いた。


そんな自分が、
あまりにも惨めで…


「奈央ちゃん。兄妹の関係でしょ?
私が尚人取っちゃったから、
怒ってるの…かなぁ?」

真美さんは、
アタシのことを見下すような目で見て
尚人を連れて、家を出て行った。



…こんなの、普通じゃん。


アタシだって、してたもん。キスぐらい…



でも、嫌だよ…

尚人が他の女としてるの、見るの辛い……



涙は止め処なく溢れてきて。

ワガママだって、分かってる。
でも止められないんだもん…


何で尚人は、辞めてくれないの?
何で尚人は、拒否してくれないの?

…アタシのこと、嫌いなのかな?


よく言われた。
小さい頃、お婆ちゃんに冷たくされる度に
「アタシのこと、嫌い?」って聞くアタシは、
親の愛情を知らないから、
寂しいんだね…って。


今だ、その寂しさが
抜け切ってないのかな…?

冷たくされると、まるで
独りぼっちになっちゃったみたいに感じて。

すごく、すごく、心細くて。
すごく、すごく、怖くなる。

独りで居ることに、
慣れたはずなのに…ね。

でも慣れてしまったからこそ、
アタシに構ってくれる尚人と
離れるのが、どうしても嫌なんだ。

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