涙跡-Ruiseki-
「辞めるって。
…それに、真美さんに思いっきり
引っ叩かれたしさ。いい機会だろ。…っな?」


尚人の「っな?」には
命令の意味が込められている。

尚人が言ったことは、絶対。
命令に逆らうと、
機嫌悪くなっちゃうし…ね。


「うん!」

思いもよらなかった。
アタシが売りを辞めて、
尚人と付き合えたことも。
尚人がアタシの為に売りを辞めてくれることも。

全てが夢のような感覚。

尚人の行動全てに、
驚いたりとかしっぱなしなんだけど…
でも、その1つ1つの行動に
愛を感じるから。
だからアタシは、尚人のことを
ずっと好きで居られてるんだと思う。



「ちょい、こっち来い。」

尚人に腕を引っ張られて
連れて行かれたのは、
まだ真美さんの臭いが充満する
寝室だった。




「…え?」

「もう、黙って。
こっからの主導権、全部俺にあるから。
奈央は否定する権利無いからね?」

そう言って、アタシを
ベットに押し倒した。

意地悪な顔をして、
アタシの首筋、胸元に点々とキスをする。


明るい茶色の髪が、
アタシにフワッと触れて
くすぐったい。


子犬みたいに甘えたような
顔をする尚人が、すごく
可愛らしく見えて、
すごく愛しく思えた。

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