Home*ただいまを言う場所*

店員さんに断りを入れて、本多はこちらに歩み寄る。
あの頃よりも少し伸びた髪、見慣れないスーツ姿。
けれど脳裏に浮かぶのは、高校時代の汗の伝う真剣な顔。
同じ体育館で、同じように時間を過ごした。
バレー部のキャプテン同士、真面目に部活もしたし、たまにはバカもした。
エースを張る本多のスパイクを打つ姿、苦手なレシーブを上げる姿。
得点すると、味方を鼓舞するように大きな声で叫ぶ。
そして、キラキラ輝く表情。
大好き、だった。

……だけど本多には可愛い彼女が居たから。
私は最後まで、素直になれなかった。
人の幸せを奪うことが、悪者になることが、怖かった。

卒業式の後、みんなで集合写真を撮った。
男子部、女子部、合同で体育館を背に集まる。
涙ぐむ後輩たちを慰めて、花束を貰うと、これでもう本当に最後なんだと嫌でも自覚させられた。

「キャプテン同士で撮ろう!」

本多が声をかけてきて、2人で撮った写真は、実家の卒業アルバムと一緒に保管されている。
破こうとしても破けなかった、涙が染み込んだ写真。
それを見ると、その時に交わした会話が鮮明に思い出されて、嫌だった。

今はその写真はないけれど……同じ空間にいる本多が、忘れさせてはくれない。


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