Home*ただいまを言う場所*
苦い思い出だと避けてきたけれど、案外、簡単なことだったのかもしれない。
今なら、あの時感じたことを話せるかもしれない。
「ねぇ。……私、ね。本当はあの時、本多のこと好きだったんだよ?」
フフッと笑う私を、一瞬呆気にとられた後、片側の口角を少しだけ上げてニヤッと笑って返す本多。
「知ってたよ」
そうあっさりと返してくる目の前の男は、優しく目を細めて私を見る。
それに私は、やっぱりバレていたか、と苦笑した。
「お前、嘘吐く前に一瞬唇をかむ癖があるんだ。……知ってた?」
「それは知らなかったな。今度から気を付ける」
お互いに笑い合い、その間を緩やかに風が通っていった。
心に甦る、淡い恋心。
紛れもなく好きだった人。
叶いかけた恋に鍵をかけたのは私。
目の前にいる、この人に、かつての私は、恋をした。
きっと私の気持ちはあの当時から本当にバレていて、それを見越して本多も告白してきたんだろう。
自信満々で、強気な本多のことだから。
その気持ちに偽りがあったとしても、なかったとしても。
なんてずるいヤツ。
私は、ギュッと掌を握り締めて、一つ息を吐いた。
「あの時伝えられなかったことを後悔は、してない。……今、伝えられたことも」
穏やかな笑顔で聞いてくれる本多。
「だから、私は帰るよ。あの人が待っててくれる家に」