a k a t s u k i
この亜砺怡瑠(アレイル)市は、教育機関や研究機関の集合体が産業や文化で大きな役割を担っている、いわば学園都市である。

世界の中でも有数の豊富な天然資源と環境資源を併せ持った都市で、それらを最大限利用し高度な成長を果たすことができた。

都市の内外では技術格差が存在するものの、その最先端の科学技術は国内のみならず国外からも注目されていて、近年は国外から移住してくる者も少なくない。





「学園都市ねぇ」

俺はついさっき受け取ったばかりのパンフレットにざっと目を通した。

「やっぱすげぇな。聞くのと見るのとじゃ大違いだ」

パンフレットを綺麗に折りたたみ鞄に仕舞う。

かすかに揺れる開きかけた桜の花を横目に、俺はゆっくりと校門に向かって歩いていた。

正直、俺は春という季節があまり好きではない。

新しい環境に慣れるまでの居心地の悪さと緊張が嫌だった。

しかも今日から高3になる。

あと1年すれば“社会”というもっと広いところへ出て行かなければならない。

漠然とした不安を感じつつも、俺の目は柔らかく揺れる桜の花を追っていた。

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