アイデンティティ
第1章 美沙
美沙   vol.1



誰かに呼ばれた気がして目が覚めた。
ぼんやりと見えたのは一面の白。
それが天井だと気づいた頃には騒がしかった私の周りがさらにうるさくなった。「……気がついたのね!!」
歓喜に震えたその声の主は50代くらいの女の人だった。心配したのよだとか無事で良かっただとか矢継ぎ早に告げる彼女に、私はただただ面食らう。
何がそんなに嬉しいのだろう。
“見知らぬ他人”のことなのに。
「……あの」
「あ、ごめんなさいね。私ったら興奮しちゃって。里沙があんなことになったのに不謹慎よね」
「……里沙?」

身に覚えのない名前。
目の前にいる人も今の名前も今日初めて見聞きしたはずなのに、なんだか胸の奥がずくりと疼いた。
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