埋まる
恐る恐る家のチャイムを押す。
私の服はもはや汗で湿っていた。冬の、冬の午後だというのに。そこまで頭も、体も狂い、緊張していたのか。


しかしチャイムを押しても扉は堅く閉ざされたままだ。



だからこそもう一度押す



しかし出ない



サオリの家は素晴らしく綺麗だ。しかし感情を持っていない。ベージュの壁も、黒い扉も、広い庭も全て私を無力化するようだった。



負けそうになる心を励ますように私はチャイムの有り方を考えて強く押した。


チャイム…チャイムとは人を呼ぶもの…人を呼びだすための…


力が入り人差し指が赤く染まってゆく。しかし、それは霜焼けではない。
私の指は強固されていき、チャイムと同化することを望んでいるようだった。



すると、どういうことか少し間を置いて黒い扉は勢いよく開かれた。それは力強く、でもどこか繊細である…



私は呆気にとらわれていた。まさか出るとは思わなかったから。
乾燥の火がめらめらと喉に燃え移っては、喉をカラカラにさせる。
扉の向こうにはサオリが立っていた。姿勢がよく、顔は白い。それを見ると、彼女が生きた人間ではないような錯覚を起こしてしまうほどだった。

私はサオリに会えば謎は解決できると思っていた。夢のこともサオリの正体も、全て聞くつもりであったからだ。

でもどうだろうか。私は彼女を目の前にして、突然そのような話題を出すことは許されることなのか怯え始めていた。


私は先ずこう切り出した
「しばらく学校休んでるからさ、来てみたんだ」



サオリは表情を一つも変えはしなかった。それはまさしく季節柄であったのか、凍えるような冷たい目で私を見た。
そして彼女から予想だにしない返答が返ってきた。
「あなた何をしているの。早く目覚めなさいよ。こんなことをして…」




見るかぎり冷静沈着であるが少し苛立っているようでもある。私は、サオリにストーカーか何かに間違われたに違いないと悟った。




もう一度彼女を見たら、更に体温の上昇を感じる自分がいた
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