埋まる
初めて接触することができたのは、いつかの昼休みだった。また視線を感じた私は無駄だとは思ったが、いつものように振り返ってみた。御手洗いを終えて教室に戻ろうとしていたため、私の手は生乾きで、拭く場所を求めて浮遊している。しかし次の瞬間には手のことをすっかり忘却していた。
先程までいた生徒たちは姿をくらまし、廊下はキーンと静まりかえっている。誰もいない学校とうのはまた、どことなく寂しさを感じる。私はその荒涼とした雰囲気にあの夢と重なる部分を見、額に汗を滲ませていた。そこには一人の少女が立っていた。姿勢はピンとしていてそれはスギの木のようであり、綺麗な黒髪は美しく顔立ちも尚美しい少女だ。彼女は私のクラスに在籍しており、名は確かサオリといった。サオリはあまり目立つ方ではなかったが、その容姿から男子からは人気が高いようで、いつも隣には男の姿があった。私は逆にここで声を掛けないのは不自然ではないのかと思い、首に手をあてて差し障りのない話し方で声をかける

「あれ、何か人いなくなっちゃってるね。収集でもかけられてるのかな。分からない?」
私は真ん丸い黒い眼に向かって淡々と問い掛けた。辺りは霧に包まれているように見え、幻覚ではあるが学校ではなく雲の中にいるような錯覚を覚える。間を少し置いてからサオリは私に向けて口を開いた

「もう戻らなきゃね。そろそろだよ」

彼女はそれだけを言って教室に戻ってしまった。私はその言葉の意味が理解できず、しばらく考え込んでいた。気付けば、いつもの昼休みがそこにはあった。ふざけあっている者。話し込んでいるもの。いつもの風景だった。私は友人に背中をポンッと叩かれ我に返ることができた。


あれは一体何だったのだろう
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