偽りの人魚姫
よっさんは、ご機嫌がすぐれないご様子。
 
「遅い。」
 
開口一番これか。
 
「そう思うんなら、よっさんが6組に来りゃいいじゃん。」
 
「やだよ。」
 
「なんで。」
 
「遠い。」
 
「俺、その遠いとこから来たんだけど。」
 
「だから何。」
 
理不尽って言葉、よっさんは知ってるかな。
 
もう、慣れたけどね。
 
皆、こいつのこともう優等生だなんて言っちゃいけないよ。
 
実際はただの唯我独尊くんなんだよ。
 
こんなんでも、俺の相棒なんだけどね。
 
「で、なんの用なの?」
 
俺は諦めてよっさんに尋ねる。
 
「クリスマスライブの曲、どうなってる?」
 
痛いとこきたね。

俺らはいわゆる、オリジナルバンドってやつで。

作詞作曲は自分達でやるわけ。

俺が作詞担当。

よっさんが作曲担当。

俺は作曲の才能がない。

よっさんは作詞も出来るけど、あまり得意じゃないらしい。

あと、音痴。

これ、本人に言うとめっちゃ怒られるから注意ね。

優等生で完璧なよっさんの唯一の弱点。

俺も命が惜しいから他言してない。

だから、おそらく知ってるのは俺一人。

よっさんが作詞してもいいんだけど、自分じゃない人が綴った詞を歌うのはなんだか違う気がして、もっぱら俺が作詞してる。

よっさんも同じ考えだから、中学の時からこのスタイルは変わらない。

なかなかにバランスがとれてるよね、俺ら。


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