偽りの人魚姫
で、クリスマスライブなんだけども。

クリスマスライブは生徒会主催のクリスマスイベントの一部で。

全ての企画が終わって、夜が近づいた頃に体育館を占領して行われる。

つまり、最後を締めくくるメインイベントなわけで。

役目を終えた役員の皆さんも集まるから、ほとんど全校生徒が体育館に集結する。

自由参加だけど、公立校でクリスマスイベントを行うのは珍しいみたいで、これがウリみたいなところがあるから、たいていの人は見に来る。

だから、俺ら軽音部にとってクリスマスライブは、学園祭並みに重要な行事で。

もちろん、この日のために、新曲を用意する。

よっさんはこの新曲のことを聞いてきてるわけだけど、歌詞なんてそうそうポンッとなんて出てこなくて。

いまだ、テーマさえ決まらず。

「おい、答えないっつーことは、そういうことなんだな。」

返事にしびれをきらしたよっさんの声。

「はい。」

嘘をついてもしょうがないので、素直に頷く。

修学旅行があったとか、おやじと喧嘩してるとか、理由はいくつでも作れたけど、飲み込む。

よっさんは言い訳が大嫌いだから。

過程より、結果派。

しかも超現実主義者。

よく言えば、妥協を許さないクールなやつで。

悪く言えば、夢のない堅物。

よっさんは、はぁって短いため息をついた。

「あ、よっさん今幸せ逃げたよ。」

「そんなんでなくなるほど、幸薄くねーから、俺。」

「いや、今のでごっそりなくなったよ。」

「そうだな、なかなか俺の元に曲が持ってこられないのは、幸せが逃げたせいかもな。」

「そんなことないよ。よっさんは、俺が来るだけで幸せでしょ。曲は俺のおまけでしょ。」

「曲の付属品がお前だけど。」

「ごめん、もうブロークンハート。」

そう言って胸を押さえて苦しむ仕草を見せる。

「お前のハートは鉄製だから安心しろ。プレス機械がなきゃ壊れねぇよ。」

「お、鉄のハートとか、なんかかっちょええ。」

「ほめ言葉じゃねぇぞ。」

よっさんがあからさまに呆れた顔をしてる。

知ってるっつーの。

雰囲気だよ雰囲気。

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