偽りの人魚姫
彼女、真面目そうな外見と似合わず、意外と置き勉派なんだ。

「モリノも、教科書?」

そう言って、自分の教科書を持ち上げて見せる。

俺もだよ、的な意味を込めてね。

彼女はコクンと頷いた。

お、初めて会話が成立した。

会話って言っていいのか分からないけど。

イヤホンを耳にしていない彼女と対峙するのは、初めてかもしれない。

めったにないチャンスだから、授業中にもかかわらず、会話を繋げようとしたけど、彼女はもう背を向けていて、話しかけるタイミングを損ねてしまった。

背中を見つめていても、仕方がないので、教室に戻ろうと、ドアへ向かう。

彼女は反対側のドアに向かっていた。

俺、なんか彼女の嫌がることしたかね。

これは、流石にへこむぞ。

「飯島、何やってんだ。」

教室に入ると、先生と目があった。

「さーせん。教科書ロッカーでした。」

おおげさに頭を下げると視界の端に、反対のドアから悠々と教室に入る彼女が映った。

先生は俺をしかってるから、気づいていない。

ついでに生徒達も、怒られてる俺を笑って見てるから、おそらく気づいてない。

そういうことね。

俺は、嫌われたとかじゃなくて、まんまと利用された訳だ。

やるな、彼女。

< 17 / 47 >

この作品をシェア

pagetop