偽りの人魚姫
「お前、いつもじゃないか。いいかげん、昼の内に用意すること覚えろよ。」

「さーせん、昼はどうも忙しくて。」

「教科書も用意出来ないほど何やってんだ。」

「先生、野暮ですね。よっさんと愛を育んでたんスよ。もう、言わせないで下さいよ恥ずかしい。」

頬に手を当てて、いじらしいフリをして言うと、教室がどっとわく。

俺はよく、よっさんの名前を出すから、このクラスでよっさんは有名だ。

どんな風に思われてるかは、なかなかに危ないとこだけど。

よっさんに知られたら、大変なことになりそうだ。

よっさんは、目立つのが嫌いだからね。

まぁ、イケメンな上に軽音もやってるもんだから、目立たないようにしようなんてのは無理な話だ。

更に目立たせてる俺が、どうこう言える話じゃないけどね。

先生は、呆れてる。

「吉田もかわいそうだな。しかたない、吉田に免じて今回は許してやるから、次回は気をつけろよ。ほら、席つけ。」

「はい、よっさんに、早く俺を解放するよう、説得しときます。彼、束縛タイプなんで。」

再び、場が盛り上がった。

ごめん、よっさん。

あんたが最近、変な視線のせいでこの教室に入り辛いって言ってるその原因は、確実に俺だ。

笑いが収まらぬ中、俺は席につく。

彼女の方を見ると、彼女はやっぱり、欠片も笑ってなくて。

さっき取ってきたのであろう教科書をめくっていた。

彼女は無事、窓際の自席にたどり着けたらしい。

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