偽りの人魚姫
窓際の彼女。

ドア際の俺。

黒板を見ている、彼女。

彼女を見ている、俺。

俺と彼女の間には、確かな距離があって。

それが、少しだけ、もどかしい。

今まで、気にしたことなかった。

俺と彼女の関係。

皆と彼女の関係。

この距離感が答えだろうか。

きっと、この距離感は、ドア際にいようが、彼女の前の席だろうが、変わ
ない。

俺らが彼女のことを置物のようだと感じているように、彼女は俺らを置物のようだと感じているのだろうか。

だとしたら、それは悲しいことだ。

同じ空間にいるのに、違う視線を持ち、違う音を聞く。

彼女は独りだ。

誰と経験を共有することなく、たんたんと生きている。

だからかな。

俺には最近、気になるやつがいる。

別に、好きとかそんなんじゃない。

ホントにただの好奇心。

彼女の見ている世界が、なんだか無性に気になった。

ただ、それだけの話。


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