偽りの人魚姫
日野と一緒に部室棟に向かう。

「さんきゅーな。」

「いいよ。俺、クリスマスライブ楽しみだし。」

「マジ?俺目当て?」

「違ぇよ。でも、期待してるよ。今回はどんなんやんの?去年はすごかったじゃん。なんか叫びまくりで。」

「叫びまくりって、なんか聞こえ悪いな。」

ま、否定は出来ないんだけど。

俺らがやってんのは、シャウト系のロック。

綺麗に、とかじゃなくて。

とりあえず、想いよ届けって感じに、かき鳴らす。

うるさいとか、騒がしいとか言われるけど、そこはご愛嬌。

「吉田くんだっけ、あの頭良さそうなの。俺、あいつがああいうのやると思わなかったよ。なんか、大人しそうじゃん。」

普段、真面目なよっさんだけど、ライブの時は見事なパフォーマンスをかます。

サラサラな髪を振り回す彼のヘドバンは、女子の羨望の的だ。

「すごかったろ。女の子は、ああいうギャップにくらっとくるのかね。」

「確かに。」

「むかつくな。俺のが断然魅力的だっつの。」

「どこが。頭はむこう、顔もむこう。お前、何が勝ってんの。」

「性格。あと、俺デスボイス出る。」

「へぇ、吉田くんって性格悪いの。お前よりも。それ、相当じゃね?」

「どういう意味だコラ。」

「あ、部室ってここ?」

「おい、話そらすな。」

「あ、これが噂のキーボード。」

「噂じゃねぇよ。」

「なに、誠也これ弾くの?似合わねぇ。」

「うるせぇ。弾くのは、よっさんだ。」

「うわ、似合う。」

「おい、どういうコトだ。」

「てか、ピアノも弾けんの。もう、完璧じゃん。誠也、絶対勝てないよ。」

「よっさんにも、弱点はあんだよ。」

「へぇ、なに?」

「ノーコメントの方向で。」

「なんで。」

「そういうのは、事務所を通していただかないと、困ります。」

「お前は吉田のマネージャーか。」

「いえ、腰巾着でございます。」

二人、階段の踊り場で笑う。

人気の少ない廊下に声が響く。

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