偽りの人魚姫
「そういえばさあ、誠也、お前昼何してたの?」

「あ、遅れた理由?授業で言ったじゃん。よっさんに会ってたって。」

「そっちじゃなくて。モリノになんか話してたじゃん。」

「ああ、そっち。なんで、駄目?」

「駄目じゃないけどさぁ、あいつ、超無愛想じゃん?」

「確かに、良くはないけど。」

「隣だからさぁ、話さなきゃいけない機会があんだけど、上手くいかないのなんのって。」

「喋れないから仕方ねぇんじゃねぇの。」

「にしてもさぁ、愛想は関係ないだろ。なんもしてないのに、俺、嫌われてるみたいじゃん。」

「あ、お前にもそうなんだ。」

教室のドアを開ける。

もう、誰もいない6組の教室。

「お前にもって?」

「俺も嫌われてんのかなって思ったから。」

彼女のあの態度が、俺だけに向けられたものでないと分かって、少し安心。

「だから、わざわざ関わるやつも珍しいなって。」

「ん、ちょっとね。」

「なんだよ、ちょっとって。」

濁した俺の返事に、若干、訝しげな顔。

彼女が、もしかしたら喋れるかもしれない、なんて軽く口に出来ることじゃない。

彼女のためにも言ってはいけないだろうし、俺自身、俺だけが知っているだろうことだから、あまり知られたくない。

それに、まだ真相は分かってないし。

「まあ、いいじゃん。」

「変なやつ。」

「今頃気づいたのか。」

後ろから聞こえる声。

少し低めで、落ち着いた大人びた声。

よっさんだ。

< 22 / 47 >

この作品をシェア

pagetop