偽りの人魚姫
7.予定は未定
あの日、ベースもギターも全く分からずに手に取った俺らは、放課後、下校のチャイムが鳴るまで、適当に弾き続けた。

音楽センスに差があって。

初めてだというのに、見よう見まねで弾くよっさんの曲は、どことなくそれっぽくて。
 
始めから、実力差があるような気がして、少し悔しかった記憶が蘇る。
 
あの時から、知ってた。
 
よっさんが何でも出来る人だってこと。
 
それなのに、俺を選んでくれたのはなんでだろうって始めの内はいつも疑問に思ってた。
 
ピアノだって、周りが騒ぐほどすごかったのに、あっさり止めちゃって。
 
俺は、よっさんの邪魔になってんじゃないかって思った。
 
それでも、年月を重ねる内に、そんな考えは消えてって、ずうずうしくも、よっさんの隣にいるのが当たり前になってた。
 
よっさんは、もともと凄い人なんだ。
 
俺らのこの4年間の活動に、疑問を持つなんて、それこそ今更って話だ。
 
俺が無理やり誘ったんだし。
 
どちかってーと、4年間、よく付き合ってくれたのかなって。
 
なんの取り柄もない俺に。
 
おかしいとか、落ち着けとかよっさんに言ったけど。
 
ホントに冷静にならなきゃいけないのは、俺の方だ。
 
いつまでも、よっさんを振り回すわけにはいかないよな。
 
もうすぐ高三だし。
 
進路云々の話が家の中でも上がってる。
 
俺は全く見通しがつかないけど、頭のいいよっさんのことだ。
 
きっと、もう準備は始まっているのだろう。
 
軽音部は、三年の文化祭が引退ライブとなる。
 
よっさんは、そこまで俺に付き合ってくれるのだろうか。
 
俺が悶々としていると、曲はクライマックスを迎え、終局に向けて更にテンポが落ちる。

余韻を残しながら、最後の一音まで弾き終えると、よっさんは一息ついた。
 
久々に弾くというクラシックは、素人の耳じゃ全く衰えてないように感じる。
 
あの頃と同じ、ぶれることのない、芯の強いメロディーライン。
 
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