偽りの人魚姫
俺は調子にのって、窓を全開にする。
 
そして、外に向かって歌う。
 
叫ぶ。
 
まるで、野外ライブのようで気持ちがいい。
 
思わず笑みがこぼれる。
 
隣りの窓で、よっさんも同じように叫んでた。
 
よっさんにも、伝えたい何かがあるのだろうか。
 
吐き出したい何かがあるのだろうか。
 
少し音程の外れた、低音。
 
アンプの音がでか過ぎて、校庭の人達には伝わらないだろうけど。
 
俺には、ちゃんと届いてた。
 
完璧なよっさんの、完璧じゃない部分。
 
よっさんもやっぱり人間なんだって変に納得して
 
悩んでた自分が馬鹿らしくなって

また笑った。
 
気付いたら、よっさんも笑ってた。
 
校庭でランニングしてる野球部も
 
スクラム組んでるラグビー部も
 
隣りのテニスコートで素振りしてるテニス部も
 
反対の校舎に見える美術部も吹奏楽部も
 
みんなみんな笑ってた。
 
それだけで少し、この四年間に意味があった気がして。
 
最後の一弾きに、全てが伝わればいいと思った。
 
よっさんと目を合わす。
 
焦らして、焦らして。
 
最後の一音を奏でる。
 
ドラムがいないから、ピシャンとは決まらないけど
 
いつもの俺ららしい終わり方。
 
俺らなりにビシッと決めると

学校中から、歓声が上がった。

すぐにコーチやら顧問やらに怒られて、歓声は沈んでいったけど。

熱い余韻は、冷めることなく校内を漂よう。
 
発信元はただの教室。
 
二年六組の、窓際。
 
普段は社会に出るための教養を学ぶ場所で、やってることは正反対の行動だ。
 
子供だから許されることかもしれない。
 
でも、逆に言えば
 
子供の内しか出来ないことだから。
 
たとえ、職員室から先生が説教を携えて来てたって
 
後悔はない。
 
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