偽りの人魚姫
「なんか、久々。」
 
「確かに。」
 
二人とも若干かすれた声で。
 
目を合わせて笑った。
 
「俺さぁ、ちょっと家でもめててさ。お前の言う通り。ちょっとイライラしてた。ごめん。」
 
かすれて、更に低くなった声で、よっさんは頭を軽く下げる。
 
「別に、いいけど。でも珍しいね、よっさんが家でもめてるなんて。」
 
「ま、ほら、先生がこの前爆弾投下したじゃん?」
 
「爆弾?」
 
「進路希望調査用紙。」
 
「あぁ、確かにそりゃ爆弾だ。うちにも投下されたよ。しかも盛大に被爆した。」
 
「先生のヤツ、何も保護者会で配布することないのにな。」
 
「あ、そうだったの?」
 
「お前、それも知らなかったのかよ。」
 
「急に説教始まったから、何事かと思ったよ。そーゆーわけね。ってか、なんでよっさんともあろう人が、進路関係で親と衝突してんの?」
 
「なんだ、それ。俺だって、進路で衝突くらいするさ。」
 
意外だ。
 
よっさんのことだから、某国立大とか書いちゃって、こう、ビシッと親に叩きつけてるかと思った。
 
「まぁ、若干今押し負けててさ、俺これから塾なんだわ。」
 
「マジで?よっさんが、お塾?」
 
「お塾言うなよ、仕方ないだろ。」
 
頭のいいよっさんに、塾なんて関係のないものだと思ってた。
 
「もしかして、これからあんま練習出来なくなんの?」
 
「それは、避けたいんだけど・・・まぁ、すまん。」
 
「いや、しょうがなくね?ってか、それで、焦ってたんだ?」
 
「まぁ、それもある。」
 
なんだか、はっきりしないよっさん。
 
「それも?なに、何かまだほかに理由でもあんの?」
 
「まぁ・・・なんつーか、うん。」
 
よっさんが、言葉を濁らせるのは、だいたい追及してほしくないことだ。
 
隠そうとすれば、隠せるんだろうけど、正義感が強いから、言葉を濁すそぶりをわざと見せて、隠し事をしているのを伝えている。
 
だから、俺はこれ以上追及しない。
 
よっさんはよっさんで、きっと自分で解決しようとしてるから。

俺は、よっさんからのヘルプを待つだけ。
 
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