偽りの人魚姫
さんざん説教くらって

その流れで見回りの先生にキーボードを運ぶのを手伝ってもらって

また教室に戻ってきた時には、窓の外が真っ暗だった。
 
さっきから開けっ放しだった窓を閉めようとして、気付く。
 
俺が校庭に向かってベースを弾いていた場所は、モリノの席だった。
 
また同じ場所に立つと、モリノのあの仏頂面が目に浮かんだ。
 
モリノの席からでも、あんなに沢山の笑顔が見える。
 
モリノは、このことを知っているのだろうか。
 
喋れるのに、ずっと黙ったままのモリノ。
 
そりゃ、モリノにはモリノの理由があるんだろうけど。
 
モリノには、伝えたいことがないのだろうか。
 
さっきの様に、たまには叫んでみたくはならないのだろうか。
 
俺は、あるよ。
 
何を伝えたいかも分からないのに
 
無性に叫びたくなるんだ。
 
伝えようともがいたら、笑顔をくれるさっきの生徒達のような人達がいることを
 
俺は、知ってるから。
 
真っ暗な外を窓で遮断して、これからのことを考える。
 
帰ったら、きっと、昨日から怒りっぱなしの父親が、鎮座して待ってるはず。
 
外の暗闇が、自分の未来な気がして、家に帰るのが億劫になる。

どうやって、言い訳つけて遅くに帰ろうか、そんなことばかり考えていたが
 
急に思考に飛び込んできたポジティブシンキング。
 
黒だって、黒一面だったら、この先に描かれてることはまだ分からないってことだ。
 
暗闇だって、先のことが分からないって意味じゃ、まっさらな未来と変わらない。
 
うん、つまり、予定は未定ってことだ。
 
俺もなかなか上手いこと考えるな、とか自分におかしくなって。
 
少しだけ、気持ちが軽くなると

教室を施錠した後に待つ二度目の説教も、乗り越えられる気がした。

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