愛、シテあげる。番外編

「蓮、」


必死に肩を押すけれど、ビクともしなくて。


「う…」


さすがに怖くなってきた私は、ポロポロと涙を溢れさせる。


蓮はそれに気づくと、静かに雫を舐めとり、

「怖い?」


と囁く。


長い睫毛に縁取られた黒い瞳は、情欲に色づきながらも、どこか静かに見えたから

「……怖い」

素直に答えられた。



「やめてほしい?」


「え?」


「こんな僕は、嫌い?」


「そういうわけじゃ、」


「じゃあどうして?」


「えっと、」



なにこの尋問。


またもや心臓が騒ぎだして、落ち着かなくなっていく。



「その、えっと、」


「言わなきゃ分からない」


「嫌っていうか、あの」


「本当は嫌じゃないよね」


「へ、」


「恥ずかしいだけでしょ?」



「っ…」



この人は、私を追い詰めるのがなんて上手いんだろう。


「図星?……また涙出てきた」


そう言って目元にキスを落とし、彼は目を細める。



「泣かないでよ。

………いじめたくなる」


小さく呟かれた言葉はしっかり耳に届いて、胸の奥でキュンという音が確かに聞こえた。




ああ、そうか。

認めたくはないけれど、私はきっと


「………して」


「ん?」


「………蓮の、好きにしていいよ」


私はきっと、彼に支配されてしまいたいんだ。



「…自分が何言ってるか、分かってる?」



「うん」


頷いて、体の力をゆっくり抜く。


しばらく沈黙が続くけれど、蓮の表情は長い前髪に隠れて見えない。



「蓮?」


「…………から」


「え?」


「……どうなっても、知らないから」


「ちょ、」



途端。ぐん、と視界が反転して、背中に柔らかいもの。



「覚悟はできてるよね」


「お、お手柔らかに…お願いします……」


「却下」


「ええ!?ちょ、まっ、ひいいい!!」




制止の声も何のその。


魔王様の暴走は止まることを知らず。



ただの子羊と成り果てた私は、もうあんなこと言うのはやめようと、固く決心したのだった。









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