愛、シテあげる。番外編
「おはようございます」



玄関に辿り着くと、笑顔が眩しい仲山先生が迎えてくれた。


「おはようございます。今日も一日、蓮をお願いします」



僕は靴を脱いで、『かいじょうれん』と書かれた自分のスペースに仕舞う。


「蓮、夕方迎えに来るね」


「………きょうはまさひこさんですか?」


「そうしたいのは山々なんだけど、ごめんね。今日も会社の人が迎えにくるからね」

「いえ、おしごとがんばってください」



昌彦さんは会社の社長で忙しい。朝は時間をつくって僕と一緒にいてくれるけれど、夜はいない。寂しくないと言えば嘘になる。だけど、僕を息子同様に大事にしてくれてるのは十分分かってるし、仕事が大変なのも知ってる。だから、我慢。


「さ、蓮くん。お父さんにバイバイしようか」


「はい、」




お父さん。


その単語が出せない。喉でクッと詰まって、胃に流れていってしまう。


「………まさひこさん、さよなら」


「うん。明日も一緒に登園しようね」



優しい昌彦さんは、にっこり微笑んで去っていった。



僕は先生に手を引かれ、子供部屋へ向かう。


認めてないわけじゃない。嫌いなわけじゃない。それなのに、どうして言えないんだろう。

たった5文字じゃないか。




「蓮くん、今日はね、新しいお友達が来てるの。仲良くしてあげてね」


「わかりました」


特に興味を引かれるわけでも無かったが、一応頷いた。
『返事はしっかりする』これも昌彦さんから教わった。




部屋に着くと、仲山先生は僕をその新しいお友達の方へ導く。

端の方で一人絵本を読んでいる後ろ姿に、女の子だとわかった。

「真央ちゃん、何読んでるの~?」


「あ、仲山せんせい。これね、しらゆきひめ!」


元気のいい笑顔で、先生と会話をする。


、、、が。


パチリと僕と目が合った瞬間。



「ぎぃやあああああ!!!」




キーン………。


鼓膜を破らんばかりの声をだし、ズササッと後ずさった。


え、何ですかこの子。


僕が真央さんに持った第一印象は、『奇声を発する変な子』だった。



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