愛、シテあげる。番外編
黙っていると、真央さんは僕の目の前にちょこんと座った。

風で葉っぱがサラサラと音をたてる。

彼女の髪がなびいて、ふんわりと甘い香りがした。



「あのね、わたしにはお父さんがいないの」


「え?」


「お母さんのこと、置いてったの。ひどいでしょ?」


眉を寄せて笑う彼女に、どう反応していいか分からず、ただ頷いた。

この子は、どうしてこんな話をするんだろうか。


「わたし、すんごっくきらいなの。お父さんとも呼びたくない。だいっきらいなの……でも、でもね、きっとすきなんだ」


「……」


「お父さんがほしいの。お父さんって呼べるひとがほしいの。きらいなんだけど、やっぱりすきなの」


矛盾する気持ち。

僕には、なんとなく理解できた。


だって僕も、矛盾する気持ちを抱えてるから。


「蓮くんには、お父さんがいるよね?」


「…はい」

血は繋がってないけれど。

「お母さんは?」


「………」


黙って首を横に振ると、真央さんは『わたしと似てる』と言った。



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