愛、シテあげる。番外編
「ねぇ、きょうそうしない?」


「きょうそう?」


「そう!どっちがさきに呼べるか、しょうぶ!」


目をキラキラとさせる彼女に、僕は微笑んだ。


「やりましょう」


「じゃあ、わたしがかったら、蓮くんモノマネやってね!」


そう言って、人の名前を出すかと思いきや、ゴキブリやらチョウチョやら、完全に人ではないものの名前を挙げる。

これは、負けたらかなり屈辱的だ。


「……じゃあ、ぼくがかったら、」



どうしようかな。

考える僕に、緊張した顔で言葉を待つ真央さん。

その顔が、その表情が、幼い僕の心に火をつける。



もっと、色んな顔が見たい。



「僕がかったら、ほっぺにちゅーしてください」



子供はみんなSだというが、僕もそれにかなり当てはまっていたんだろう。

困ったように顔を歪める真央さんに、胸が高鳴った。


「うー……」


「ぼくはモノマネしますから」

「…………わかった」


彼女は渋々頷いた。
そんなに僕にモノマネをやらせたいのかと、つい苦笑する。


ほんとは、ほっぺじゃないところにキスさせるつもりだった。
でも、それが何を意味するかなんて、幼い僕らにも理解できてしまう。



だから、ほっぺにしたんですけどね。



今思えば、この頃から僕の中に「変態」が生じたんでしょう。
将来、これが真央さん限定でムクムク育つなんて、幼い僕は知らない。



< 79 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop